ものがたり

「まったり~村の小さな農園」 北山さんご夫妻

北山さんご夫妻

茨城県常陸太田市里美地区でニワトリを育て卵を販売する養鶏業と、在来種の豆を育てる農業をしながら暮らしている北山弘長さんと郷子さんご夫妻。もともと、田舎暮らしやエコロジカルな生活に興味があったという北山さんが里美に移住したのはちょうど10年前の2006年のこと。

「勤めていた会社を退職してから、農業体験交流のNGOであるWWOOF(ウーフ)を利用して、炭焼きや農業をやっている人など、いろんな人のところを1年かけてまわり、作業を見させてもらいながら勉強しました」。そう教えてくれたご主人の弘長さんは、茨城県古河市のご出身。

最初は、実家のある古河市から1時間圏内の茂木あたりを移住先候補として考えていたという。しかし、実際にはなかなか見つからず、知り合いの知り合いが先に移住していたことがきっかけで里美を知り、最終的に北山さんも移住することを決めました。

北山弘長さん

ご主人の弘長さんは大学卒業後、アメリカのサンフランシスコの学校でインテリアデザインを学び、そのままサンフランシスコで就職。インテリアデザイナーとして、アメリカでオフィスのデザインなどを手掛けてきました。

「アメリカに10年ほど住んでいたんですけど、ちょうどそのころオーガニックのスーパーが流行りだしていたので、いろいろ近くで見てはいたんです。その後、ドイツに転勤になってヨーロッパの自然の豊かさに触れました。土日はみんなで自然の中をサイクリングしたり。そういう生活を体験してみて、次第に“自然に寄り添った暮らし”に興味を持つようになったんです」。

なかでも1次産業をやりたいと考えていた弘長さんは、その後タイミングよく日本へ転勤になりました。
「最初は林業をやろうかなと考えていたんですけど、パーマカルチャーの循環した生活を学んでいたら、日本の昔の農業がそのまんまだったので。そういう昔ながらの農業の仕事をしながら生活がしたいなと思ったんです」。

北山郷子さん

妻の郷子さんは、東京生まれ東京育ち。大学卒業後、役者を目指していたという郷子さんですが、忙しく働きながら体調を崩してしまい、健康になりながら働くには農業がいいんじゃないかと漠然と考えるようになったといいます。その後、相談に行ってみた“全国農業会議所”で勧められたのは、複数の農家のところに行って手伝いをする “酪農ヘルパー”という仕事でした。

「お世話になっていた農家のおじさんたちは、投資もするし、責任は自分で負うし、何よりフットワークが軽くてカッコ良かったんです。輝いているというか、自分の人生を生きているなと感じました。人間関係を含めて、そのときの充実感が忘れられなかったんですよね」。

その後、OLなどいろんな仕事を経験したという郷子さんですが、やはり酪農ヘルパーをしていたときの充実感が忘れられずにいました。ちょうどそんなとき、たまたまパーマカルチャーの講座を見つけて、飛び込んだのです。

「社会で起こっている環境の問題とか経済の問題とかいろんな問題の根っこは1つなんじゃないかなって感じたんです。要は、そういう問題は “自分たちが責任を負えないところで社会がまわっていること”に起因するんじゃないのかなと。それだったら自分たちの手で、分かる範囲でいいから一つづつ築きあげていく生活がしたいと思って、田舎暮らしをしようと思ったんです」。

里美風景

田舎暮らしをするにあたって、いくつか土地探しをしたという郷子さん。しかし、実際に見てみたほかの地域は、よそ者に対していくらか排他的に感じたという。

「有機農業だと虫も多くなるといって、ほかの地域では隣の畑の人とのいさかいみたいな話を聞きました。その点、里美は大規模農業には向いていない中山間地だからなのか、昔ながらの農業の知識を持ったおじいちゃんやおばあちゃんもたくさんいて、色々と教えてくれるんですよね」。

里美風景

「たとえば、水を温めるにはここに少し堀を掘って、こういうふうに回してから田んぼに水を入れたほうがいいよとか。肥料代わりにぬかを丸めてポンポンと投げるといいよとか。ほんとうによくしてもらって。あとは、ノラの会といってIターンで有機農業やっている人たちの勉強会もそのころは月に1回あって。道具の貸し借りをしたり、いろいろな知識や情報の交換をしていました」。

「そして、なにより里美の道路や土手など、何気ない景観がすごい綺麗だなと感じたんです。行政で管理された美しさというよりは、ほっかむりしたお母さんたちが手で鎌を持って草を刈ったり、お花を植えたり。ついでに、そんな里美に住むことになった北山くんはたぶんいい人なんだろうと思って(笑)」。就農当時のことを思い出しながら、懐かしそうに話してくれた郷子さん。

里美風景

「私たちがパーマカルチャーで習ってきたことって地域の人はとっくにやっていることなんですよね。たとえば、買い物は投票みたいなもので、その人を応援するために購入するだとか。私たちも頑張ってくれているからという理由で、卵を買って応援してくれる方もいるんです。あたまだけではなくて、ほんとうに生活に根付いているコミュニティのあり方というか」。

北山さんご自宅

そんな北山さんご夫妻が暮らしているのは、築300年というとても雰囲気のある古民家。冬は寒くメンテナンスは大変ですが、落ち着くし住み心地はとてもよいという。

中学3年生の時に引っ越した新築の家で、化学物質による体調不良を経験したという郷子さんは、その影響で当時あまりものを食べられず、食べ物に対して非常に敏感になっていたという。そんな郷子さんが里美に来て感じたのは、地域の人のよさはもちろん、米や野菜などの食べ物のおいしさでした。

「うちは大豆も栽培しているんですけど、これまで納豆とか豆腐は普通にスーパーなどで買っていたんです。でも、しばらくして納豆屋さんとか豆腐屋さんと知り合いになって。今は月1の朝市でも納豆とか豆腐に加工してもらって販売しています。うまく言えませんけど、そんなふうに食卓が知り合いの愛情で満たされるのが嬉しいんです。あの人がつくった◯◯みたいな。そうやっていろんな人と繋がりながら食卓が豊かになっていくのって楽しくないですか?(笑)」。そう話す郷子さんの表情からは楽しさが十分に伝わってきました。

北山さんが栽培した豆

取材中、ご自宅で見せてくれたのは、“昔から地元で育てているものに特化してつくっている”という在来種の豆。自宅から車で10分ほどの場所にある畑で育てている “黒小豆” や“娘来た”など、様々な種類の小豆、大豆、インゲン豆をテーブルの上に出してくれました。ちなみに、小豆だけでも7種類ほど育てているのだとか。

北山さんの畑

小豆の品種の一つである“娘来た”の名前の由来は、皮が薄く早く煮えるところから。嫁に行った娘が里帰りで家に来てから用意しても、すぐにやわらかく煮えるから。毎年、7月の初旬に種を撒き、収穫はだいたい11月初旬。収穫後の豆の選別作業は、とても大変な工程だと教えてくれました。

下河合のホウキ

もう一つ、取材の合間に見せてくれたのは、弘長さんご自身がつくられたというホウキ。これは、常陸太田市南端部にある下河合地区で昔から伝統的につくられていたホウキで、周辺地域では有名だったという。

「昔はこのホウキを30キロ近く離れた里美の方まで売りに来ていたらしいんですよ。最近では、掃除機や海外の安いホウキが入ってきてしまい、なかなか厳しい状況なのですが」。

下河合のホウキ

「昔は50軒ほどあった下河合地区のホウキ職人の家が、今では1軒しかなくなってしまったんです。そんな状況をみんなでなんとかしたいと考え、新しく職人を募集したんですがまったく集まらなくて。現在、私もメンバーとして参加している“種継人の会(たねつぎびとのかい)”でバックアップさせてもらっているんです。残されたおじいちゃんの職人さんにつくり方を教わりながら。貴重な技術を継承できたらなと」。

“種継人の会”は、里美地区で活躍する“木の里農園(このさとのうえん)”の布施大樹さんが代表を務める地域団体。その布施さんと北山さんなどで週に2日、職人さんのもとに夜中まで通い、2ヵ月かけて完成させたのです。

北山さんの鶏舎

弘長さんが最後に案内してくれたのは、全部で400羽いるというニワトリたちの鶏舎。

「ここにいるのは “ボリスブラウン”という品種のニワトリたちです。一般的なケージ飼いはせずに、土の上に落ち葉や籾殻を敷いて、十分に運動ができる空間のなかで育てているんです」。色が白く体が大きいのがオスで、オス1羽に対してメス10羽の割合で飼育しているのだという。

ボリスブラウン

弘長さんご自身が配合しているという、ニワトリの飼料。基準は “自分で食べたくないものはニワトリにあたえないようにする”というシンプルなもの。地元でとれる米ぬか、国産大豆のおからや小麦、ゴマ粕、牡蠣ガラ、魚粉、ヨモギなどの土手草、無農薬で育てた野菜くずなどを、きちんと分量を計算したうえで配合しています。

北山さん鶏舎

「通常のニワトリは、輸入飼料のトウモロコシをあたえる場合が多いので、その影響で黄身が黄色くなるんです。そのうえ、卵の黄身をより黄色く、美味しそうに見せるために、パプリカ色素やベニバナ色素といった、着色のための飼を混ぜてあたえることが多いんですよね」。

北山さんの卵

黄身の色の変化について教えてれた弘長さんのてのひらに載っているのは、先ほど産み落とされたばかりという新鮮な卵。契約しているレストランやご家庭に定期的に配送しているほか、“里美生産物直売所”や“ぬく森の湯”でも購入することができます。

さらに、毎月第3日曜日の午前中に常陸太田市役所の駐車場で開催されている“常陸太田朝市”にも北山さんご夫妻が自ら出店中。お二人が愛情込めて育てた卵や豆をはじめ、豆腐、豆乳、豆腐プリンなどの加工品も販売しています。

北山さんの卵

実際に卵を割ってみて確認できたのは、通常の卵に比べると少しライトイエローの黄身の色。弘長さんは、着色のための飼料を一切ニワトリにあたえず、できるだけ地元や国産の素材にこだわった飼料を配合しているため、こういった自然な色になるのだといいます。

北山弘長さん

最後に、弘長さんご自身が今後やってみたいことを聞いてみると、

「将来的に、里美でも“生きた民族資料館”みたいなことができないかなと思っているんです。たとえば、“遠野ふるさと村”や“川崎市立日本民家園”のような。さらに言えば、そこでしっかり人が生活していて、お客さんも入ってこられるみたいなことができたらいいなと。ドイツとかアメリカでもその当時の建物を移築して、そこでちゃんと人が生活できるようにして、公開していたりするんですよね。それと同じようなことを里美のなかでもできないかなと。そこのエリアに行くとその当時の服を着て、その当時のしゃべり方の人が生活しているみたいな(笑)」。静かな印象の弘長さんから返ってきたのは、想像していたよりもスケールが大きい意外な答え。自分たちが行っている自然に寄り添った暮らしを地域全体で守っていきたい。そんな想いがこの言葉に込められているのかもしれません。

 

■まったり~村の小さな農園
住所:茨城県常陸太田市小菅町1215
TEL/FAX:0294-82-3003
ブログ:http://mattaryvillage.blog72.fc2.com/
参考:種継人の会(たねつぎびとのかい)
里美地区で活躍する野菜農家の布施大樹さんが代表を務める「種継人の会」。北山さんもメンバーの1人として、毎週2回夜中までホウキのつくりかたを教わりに通っていました。
http://tanetsugibito.com/

■北山さんが育てた卵はこちらで購入することができます。
・道の駅ひたちおおた 〜黄門の郷〜
住所:常陸太田市下河合町1016-1
http://www.hitachiota-michinoeki.jp/

・里美生産物直売所
住所:茨城県常陸太田市大中町886-1

・ぬくもりの湯
住所:茨城県常陸太田市大中町2076-6
http://satomimonogatari.jp/sightseeing/nukumorinoyu/

・かわねや木崎店
住所:茨城県常陸太田市木崎二町874

・大田勘兵衛商店
住所:千葉県千葉市花見川区幕張町5-417-16 幕張FH3-204
TEL:080-4473-2688

・常陸太田朝市(毎月第3日曜日開催)
場所:常陸太田市役所駐車場
http://satomimonogatari.jp/event/morning_market/

※予約を優先しているため各店舗に置いていない日もあります。事前にお電話などでご連絡いただければ出荷状況をお知らせします。

■北山さんが育てた卵を使用した料理はこちらのお店で召し上がれます。
・トラットリア・イル・コンパーニョ(イタリア料理)
住所:茨城県小美玉市羽鳥2966
TEL:0299-56-5432

・パティスリーナチュール(ヨーロッパの伝統菓子)
住所:茨城県常陸太田市幡町2015-4
TEL:0294-74-1645

2016年09月01日 木曜日

里美でつくる人