ものがたり

「スローパンカフェアシリアペ」 見上 喜美江さん

“新しい火”という意味をもった里美のスローパンカフェ

スローパンカフェアシリアペ

「私たちは、少数の人たちとか弱い人達に寄り添いたいという考えが根本としてあるんです。常に意識の中にそういう人たちのことを想っていたいなと…」。そう話すのは、里美地区にある“スローパンカフェアシリアペ”店主の見上喜美江さん。そして、コーヒーの焙煎体験の講師を担当されている夫の進さん。神奈川県ご出身のお二人は、3年前に知り合いからこのお店を引き継ぎ、土日限定で天然酵母のパンやフェアトレード関連の商品を販売しています。

スローパンカフェアシリアペ

「里美の居心地はすごくいいですよ。休日になるとゆっくり畑をやったりして。私たちのような神奈川の人間がここにいることで、少しでも里美に人が呼べればいいかなとは思っています」。

スローパンカフェアシリアペ

店名の由来にもなっているアシリアペは、アイヌ語で“新しい火”という意味。音の響きや意味を考えてこの名前に決めたのだといいます。

「実は、もともとこの場所で別の人がパン屋さんをやっていたんです。私たちは、20年ほど前から、里美から北に100kmほど離れた福島県田村市でエゴマをつくっていました。それで、自宅のある神奈川からお店の前をいつも車で通っていたんです。そして、あるときここのパン屋さんの方と友達になり、一緒に旅行をしたりして仲良くさせてもらっていました。でも、そのパン屋さんをしていた友達からお店を辞めてしまうことを聞いて。それはもったいないということになり…。よかったら知り合いのパン職人も紹介するよって言ってくれたので、最終的に私が引き継ぐことにしました」。

スローパンカフェアシリアペ

アシリアペのパンはどれも肉厚で中身がずっしりとした感触。実際に手で持ってみるとその違いがすぐに分かります。このお店ならではの素朴で懐かしい食感が味わえます。

パンを取り扱っているのは、里美地区内にあるJA生産物直売所、道の駅ひたちおおた、直売センターせやの径(みち)。毎月第3日曜日の午前中に市役所の駐車場で開催している常陸太田朝市にも出店しています。

スローパンカフェアシリアペ

パン以外に里美地区にある店舗で取り扱っているのが、多数のフェアトレードの商品。フェアトレードとは、発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える仕組みのことです。主に食品や調味料などを販売しています。そのほか、水俣の新茶なども置いてありました。

スローパンカフェアシリアペ

店舗中央のテーブルに並べられていたのは、友人でもあるという熊本のフェアトレードを扱うお店から届いた商品。これらの商品の売上は、すべて今年4月に発生した熊本地震のカンパに繋がるのだと教えてくれました。

 

気持ちを大切にして焼き上げる自分らしいパン

スローパンカフェアシリアペ

アシリアペでパンづくりを担当されている神永千恵さん。もともと市内の農家生まれの神永さんは、ここでパンを焼く以外は、自宅で米や穀物、野菜などを育てているとのだといいます。

そして、パンをつくるうえで何より“気の持ち方”を大切にしていると話す神永さん。理由は、順番に一つひとつテンポよく進めていかないとパンづくりの流れが滞ってしまうから。いったん滞ってしまうと最終的にパンの出来に影響が出てしまうのだといいます。

スローパンカフェアシリアペ

丁寧な手つきで生地を丸める神永さん。アシリアペで働く前は、水戸で仲間たちと農業をやりながらパンをつくっていました。彼女にとってパンづくりはとても大切なものだという。震災のあとは、みんなそれぞれが離れ離れになり、友人の紹介で介護の仕事などもしていました。今後は、さらに農産物を加工していく可能性を追求していきたいとその想いを語ってくれました。

スローパンカフェアシリアペ

過去にアトピーで体を壊した経験があったと教えてくれた神永さん。当時は医者からも治る方法がないということを言われ、これから自分が一生付き合っていかなければならない状況のなかで、どうしたらいいのかを考えました。その後、植物の力、自然の力で治せるんじゃないかと感じるようになったのだといいます。

神永さんは、20歳のときにパーマカルチャーと出会い、神奈川県相模原市にあるパーマカルチャーセンターに通いました。たくさんの出会いと学びのなかで、永続可能な農業をもとにした永続可能な文化、すなわち、“人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法”を学びました。

スローパンカフェアシリアペ

「パーマカルチャーのセンターに通ったことで、いい意味でこれまでとは世界観が変わりました。決まったことをただやるのではなく、自分で創り出す、自分の足元を耕すみたいな考え方にだんだんと変わっていったんです」。

神永さんがつくる素朴でどこか懐かしいパンは、これまでの経験や想いがたくさん詰まった彼女らしいパンなのです。

 

コーヒーの焙煎体験で味わえる贅沢な里美の時間

スローパンカフェアシリアペ

アシリアペではカフェコーナーがあり、コーヒーの生豆焙煎体験もできます。コーヒー豆は、福岡県にあるウインドファームというお店から、オーガニックなものにこだわって仕入れているといいます。コーヒーの独特の香りや風味を生む“焙煎”。やはり、コーヒーは“煎りたて、挽きたて、淹れたて”が格別なのだと教えてくれました。

焙煎を指導してくれるのは夫の進さん。口元にたくわえた白い髭がダンディな、物静かで優しそうな方です。喜美江さんと進さんは、毎日ご夫婦でゆっくりとコーヒーを飲む時間を楽しんでいるのだといいます。

スローパンカフェアシリアペ

まずは専用の焙煎機に豆を入れ、火で炙ってゆっくりと煎っていきます。焦がさないように小刻みにゆすりながら煎っていくのがポイントです。焙煎機はホームセンターなどで6,000円弱で購入できるもの。しばらくするとパチパチという音がしはじめ、室内にコーヒーの芳ばしい香りが広がります。この焙煎の具合でも味に変化が出るのだといいます。

スローパンカフェアシリアペ

焙煎したあとは、コーヒー豆の皮にある“えぐ味”や“渋味”を取るため、いったん布にくるんで丁寧に手揉みします。煎りたてのコーヒー豆には温熱効果もあるため、進さんが自分で淹れるときはお灸代わりに肩や腕にあてているそうで、コーヒーを淹れるまでの一連の工程を一つひとつ楽しんでいるようでした。

スローパンカフェアシリアペ

布に入れて丁寧に揉んだあとのコーヒー豆がこちら。程よく焙煎されて、布のなかでゆっくりと手揉みされたコーヒー豆は、手揉み前と比べてやわらかな艶が出ていました。

スローパンカフェアシリアペ

手揉みが終わったら豆を挽く作業に移ります。焙煎したコーヒー豆は、粉状に挽いた瞬間に最も香りを発します。豆を挽く器具や挽き具合などによっても味に違いが出るのが、コーヒーの奥深いところなのです。

スローパンカフェアシリアペ

挽きたてのコーヒー豆を紙のフィルタに入れてゆっくりとお湯を注ぐと、室内にいっそう芳ばしい香りが立ち込めました。お湯の温度やお湯を注ぐ速度によっても味が変化するといいます。せっかちの人は少し早めに、おっとりの人は蒸らしながらゆっくりと。淹れ方次第でその人の個性が反映されるのもコーヒーの面白いところなのです。

スローパンカフェアシリアペ

地元の陶芸家さん作という小ぶりのカップに注いでくれた進さんのコーヒー。焙煎したての独特の苦味と芳ばしい香りが特徴的な一杯です。カップを口元に運ぶたびに鼻からスーッと入ってくる心地よい香りは煎りたて、挽きたて、淹れたてならでは。窓の外に広がる里美の風景を眺めながら、ゆっくりとした気持ちで時間を過ごすことができます。

 

いろんな人がいて、いろんなリアクションがあっていい

スローパンカフェアシリアペ

取材の終盤、店主の喜美江さんにお店をやっていて楽しいときを伺うと…。少しだけ間を空けてからこんなふうに答えてくれました。

「一番は、価値観の違う人と出会うのが楽しいですね。いろんな人がいて、いろんなリアクションがあるというか…。パン一つとっても、こういうのが食べたかった!という人もいれば、何このボソボソのパンは?みたいな人もいる。もっと塩も入れていないものがほしいという人もいる。お店をやっていると人間のそれぞれの考え方っていうのは幅が広いんだなっていうのがあらためて体験できる気がします」。

「あとは一人ひとりの対応の面白さがあるかな…。ここは、嫌なお客さんていうのはほとんどいないんです。むしろお客さんのほうがありがとうございましたって帰る方がほとんどなんですよ。そういうときには、こんな荒んだ世の中でもまだまだ捨てたもんじゃないなって感じるんです」。

スローパンカフェアシリアペ

取材に訪れた際、店舗隣のスペースで開催されていたのは、東南アジアを中心とした布の展示。定期的に展示をしたり、遠方かから来る友人が宿泊できるよう、2016年の8月に増築したのだと教えてくれました。

スローパンカフェアシリアペ

「布の展示なんかをやっているといろんな人が来ていろんな話ができるんです。私としては価値を感じないものにわーって感動する人もいたり。フェアトレードの商品についても言えますけど、お金があるとかないとかに関わらず、これを買って協力してあげようみたいな精神的な豊かさを感じることが多いですかね」。

スローパンカフェアシリアペ

アシリアペの入口横にある窓から見えるのは、里美ののどかな田園風景。英語でいうところの“ライステラス”。ヨーロッパの人々は田んぼが大好きで、バリ島が人気のある理由の一つは、この“ライステラス”があるからなのだそうです。

「常陸太田の市街地から来る人はこの窓からの景色を見て、本当にのどかでいいですねって言ってくれます。なんとなくですけど、里美はバリ島にも似ている気がしますよ」。

パン以外にもフェアトレードの様々な商品を取り扱っているスローパンカフェアシリアペ。焙煎体験で煎れたコーヒーをゆっくりと味わうことができるカフェスペースも併設しています。バリ島にも通じるという里美の田園風景を眺めながら、ゆっくりと贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?

 

■スローパンカフェアシリアペ
住所:茨城県常陸太田市大中町3486−2
TEL&FAX: 0294-59-3588
パンのご注文:080-3694-5007
※フェアトレードの商品は里美の店舗のみで販売

■スローパンカフェアシリアペのパンが購入できるお店はこちら
・道の駅ひたちおおた
住所:茨城県常陸太田市下河合町1016-1
TEL:0294-85-6888
FAX:0294-85-6877
http://www.hitachiota-michinoeki.jp/page/dir000002.html

・里美生産物直売所
住所:茨城県常陸太田市大中町886-1

・常陸太田朝市(毎月第3日曜日開催)
場所:常陸太田市役所駐車場
http://satomimonogatari.jp/event/morning_market/

・直売センターせやの径(みち)
住所:茨城県常陸太田市大森町1183-3
TEL:0294-70-2525
FAX:0294-70-2526
http://www.ib-ja.or.jp/shunkan/chokubaijo/22seya.htm

2016年12月12日 月曜日

里美でつくる人